お葬式でお坊さんにお渡しするお布施について、釈然としない気持ちを持っている人も少なくありません。
なぜなら、そもそも金額が明確ではありません。また、ほんの数時間お経をあげていただいただけで、何十万円もの金額をいわれるままに包んでしまうことに違和感を覚える人も多いからです。
一般の雇用労働者が1ヶ月間働いて得た収入分程度を、わずか1~2日間のお勤めでもらえるお坊さんに「坊主丸儲け」といいたくなるのも無理はありません。
とはいえ、お坊さんも生きていかなければなりません。食べたり飲んだりそれなりの生活や、寺院の維持運営も必要です。
そこで今回は、そんなお布施について、本来の意味とその役割を解説します。これらを知ることによって、お坊さんへ感謝とお礼の気持を持って、お布施をお渡しできるようになるかもしれません。
そもそもお布施とは何か?
お布施は修行の1つ
お布施の金額を考える時に、お布施の本来の意味と役割をあらかじめ知り納得すると、金額の多い少ないはそれほど気にならなくなったという人が多いです。
そもそもお布施とは、仏教の「六波羅蜜(ろくはらみつ)」という、お坊さんの修行法のうちの一つです。
六波羅蜜とは、6つの徳目の総称です。つまり、「よい行い6か条」といったところです。この6か条を日々実践することで、煩悩は消えて悟りの世界に到達できるとお釈迦様は教えています。「よい行い6か条」とは以下のような項目です。
人に施しを与えること
戒律を守り、省みること
常に努力すること
苦しくても耐えること
心を落ち着かせ、安定させた状態で自己反省すること
正しく判断力を持ち、ものごとの真実を見る目を持つこと
実は、これはお坊さんだけの修行法ではありません。すべての人々にとって、この6つの徳目は生活上の大切な教訓だといわれています。
僧侶は読経や供養で故人の冥福を祈り、法施(ほうせ)を人々に与えていることになります。法施とは、人に仏法を説いて聞かせることをいい、これも「よい行い6か条」の一番目の布施の一つになります。
法施は大きく以下の3つに分けることができます。
- 1、仏や宗祖の教えを人々に伝える
- 2、ご先祖様が安泰であるように読経・唱題を行い、祈る
- 3、生きている人々の平穏無事を祈り、読経・唱題する
このように、仏教の教えを人々に伝え広めたり、全ての人々が平穏で豊かな生活を送れるように祈ったりすることが、本来のお寺や僧侶の役目です。修行としてのお布施のもともとの意味になります。
お布施はお金でなくてもよい?
一方、私たちがお坊さんにお渡しするお布施は、この法施に対する感謝とお礼の気持ちを表したものです。
また、財産を差し出し与えることによる自分自身の修行の1つでもあります。いわゆる我欲を失くすという修行です。修行なので、「ああもったいない!」とか「つらい!」とか思ってはいけないのです。
お布施の語源は、「修行の身で、ボロボロの衣服をまとっているお坊さんに対し、布(衣類)を施し与えること」にあります。そこから「布を施こす」、つまり「布施」と呼ばれるようになったということです。
したがって、お布施は、本来金銭でなくてもよいといえます。ただ、現代の日本においては衣服や食物などを差し上げるわけにもいきません。そのため、金銭をお布施としてお渡しする慣習となっています。
お布施は労働対価ではなく寄付行為
そして、お布施はお坊さんに渡しますが、これは読経などの労働対価として「あげる」わけではありません。お布施はご本尊に捧げるものであり、寺院に寄付をするものです。
お寺側は人々から受け取ったお布施により、ご本尊をお守りしている寺院を維持して、法務(お寺の仕事全般)を行なうことができます。
また、お布施はご本尊を守る活動をしているお寺の住職や、その家族の生活を助ける役目も果たします。お布施は、間接的にご本尊や寺院を守るために使われているのです。
したがって、檀家さんはサッカーでいう、いわゆる所属寺院(旦那寺)のサポーターということになります。
つまり、葬儀・葬式でのお布施とは、僧侶へ読経や戒名を頂いた謝礼として、ご本尊へお供えしたり、寺院へ寄付をしたりするという考えかたに他なりません。
読経や戒名の対価という意味ではないので、読経料や戒名料という言葉は使いません。ただ、実際には、読経料であり戒名料というイメージでお渡ししているのが現実です。
お布施はいくら渡せばよいか?
お布施の金額は人それぞれの価値観で変わります。たとえば、大金持ちの人の1000円と年金生活者の1000円では、同じ「1000円」でも価値が変わります。
本来は、経済的に無理のない範囲でお布施を包みます。決してたくさん包んだからといって、成仏できるわけでもありません。
一方で金額が不明瞭であるために、お布施をいくらくらい包めばいいのか困ってしまいます。いくら自分の財産を差し出す修行とはいえ、見当がつきません。そこで、およその世間相場というものが必要になってきます。
お布施の種類・内訳
お布施または、お布施といっしょに渡す金品には、一般的に以下のようなものがあります。
2、お車料(おくるまりょう:出向いていただく場合の交通費)
3、お膳料(おぜんりょう:法要後の宴席に相当するお食事代)
4、戒名料(かいみょうりょう:ランク別戒名授与に対する謝礼)
5、心付け(こころづけ:いわゆるチップ)
お布施のみを渡す場合もあったり、「お布施・お車料・お膳料」の内、2~3種類の組み合わせで渡したりする場合もあります。
また戒名料は、名前のランクによって数万円から数百万円まであり、一般にはお布施に含めて渡す場合が多いようです。
心付けはいわゆる気持ち・チップです。本来お布施そのものが謝礼なので、心付けはダブル謝礼といったところです。近年では、あまり心付けの習慣はないようです。
なお、お渡しするお布施の種類は、状況や地域、さらにお坊さんとの関係によっても変わります。葬儀などでは「お膳料」などを渡す場合も多いようですが、法事などでは「お布施のみ」や「お布施+お車料」で済ます人も多いといわれています。
まとめ
お布施の意味を知っておくと、実際にあなたがお坊さんにお布施を渡す状況になった時、少しはすっきりとした気持ちで渡せるかもしれません。つまりお布施とは、
2、財産を差し出し・与えるという自分自身の修行
3、金額は最終的に自分で納得して決める
ということを意識しておきましょう。