「戒名返納料」「離檀料」に関する次のような相談が時々あります。
~ここから相談内容~
改宗または宗派を変えるなどで檀家を離れる際、檀家になっていた寺院に申し出たところ、戒名返納料30万円を請求されました。
一体なんのことを言われているのか理解不能でした。ただ、その寺院には先祖代々のお墓があり、自分の両親の遺骨は別の納骨場所に移しますが、親戚にそのお墓自体は引き継いでもらうことになっています。従って、無下に断るとお墓のことで寺院とトラブルになるのではと心配しています。
「戒名返納料」とは「離檀料」のことを言われたのでしょうか?もし「離檀料」であるなら支払わなければいけないものなのでしょうか?いずれにしても、何世代か檀家として続いた寺院と、別れ際にこのような理不尽なことを言われたことがとても残念です。どうしたらいいでしょうか?
~ここまで相談内容~
今回は、「戒名返納料」「離檀料」に関して考えてみます。
戒名とは?
戒名のルーツ
「戒名返納料」について、まず戒名とは本来どういうものかを考えてみましょう。戒名とは、平たくいえばお坊さんに授けてもらった仏教徒の名前のことです。一般に、位牌の表面に戒名、裏面に俗名(生前名)と没年が刻まれています。
現代の戒名のルーツは、親族が亡くなった日に、僧侶に依頼して菩薩戒(ぼさつかい)を唱えてもらうことに由来します。菩薩戒とはお経のようなものと考えて下さい。
この戎を受けることにより、仏弟子すなわち出家者になる。そこで出家者としての名前が与えられる。これが戒名であり、戒名を授ける日本の習慣はここから始まったとされています。(宗派によりこの考えは変わります)
戒名の本来の意味
ただ、本来は亡くなってからではなく、生前に「仏教に帰依し戒律を守ることを誓った者」に与えられる、仏教徒としての名前を戒名といいます。「帰依する」とは「拠り所にする、すがる、信者になる」ということです。
また、ここでいう守るべき仏教の基本的な戒律とは「三帰五戒(さんきごかい)」のことです。
三帰とは、
2、法(仏さまの教え)
3、僧(仏の教えの実行集団)
また、五戒とは、
2、盗まない
3、みだらなことをしない
4、嘘をつかない
5、酒を飲まない
という戒律です。
つまり、本来は生きているうちに、この戒律をすべて守ったものに対し与えられるライセンスのようなものが戒名といえます。言わば、超難関試験を突破して獲得した資格です。
ただ、この戒律を生前にすべて守るのは至難の技です。それゆえ現代では、「死後の名誉的名前」をさすようになっています。
これは、「戒名を授けられることによって初めて死者は戒律を守ったものとして認められ、無事に成仏することができる」という捉え方がされるからです。立派な功績を残した人へ、死後に与えられる勲章のようなイメージです。
また、この戒名にはランクがあります。生前の菩提寺(ぼだいじ=檀家になっている寺院)への寄付金や寄与などの貢献度や、葬儀の時に支払うお布施の金額によって、より位の高い名前がもらえます。相場は、20~30万円から数百万円です。美空ひばりさんは三千万円だったといわれています。「地獄の沙汰も金次第」といわれる所以です。
なお、一般的には「戒名」という人が多いですが、浄土真宗では「法名(ほうみょう)」といい、日蓮宗では「法号」といいます。
戒名料の意味とは?
このように戒名は、現代では言わば「名誉的・勲章的」な意味合いが大きいです。お坊さんから仏弟子として認められた証です。「これであなたも悟りを開いて無事に浄土へ成仏できますよ」という、あの世行きのチケットを手に入れたようなイメージです。
このチケットの代金がすなわち戒名料です。それにしても戒名代が高額すぎる、と思っている人が多いのも現実です。80歳代以上の高齢者の方はそれでもありがたがっていますが、その子供世代の多くは疑問・不審に思っています。
ただ、原則として、寺院に支払う戒名料はあくまでもお布施です。お布施とは寄付です。戒名料という名目ではありますが、実際は寺院の存続を成立させるための寄付行為になります。お布施はあくまでも、お坊さんが行う供養や読経への労働対価やサービス対価ではありません。
したがって、単なる名前としての戒名料と捉えたら高額と感じますが、寺院の持続・運営を支えるための社会貢献としての寄付と割り切ればまだ納得がいくかもしれません。
「戒名返納料」「離檀料」への対応方法
「戒名返納料」「離檀料」を請求されたことに関する冒頭の相談への対応方法例を以下に示します。
寺院から請求された「戒名返納料」というのは、ここでは「離檀料」と同義であると推定されます。名目は何であれ、要するに檀家を離れたいのだったら、
「今までお世話してあげたんだから、いくらかの気持ちを示してくださいよ」
と、暗にお布施(つまり寄付)を要求されていると考えられます。何らかのビジネス上の商品やサービスの対価として請求されているわけではありません。
ここで「離檀料」という表現をすると最近は問題も多いので、あえて「戒名返納」という言い方をお坊さんはされているのかもしれません。(推測です)
戒名を返納すること自体は特に問題ありません。ただし、戒名を授けていただいたときにすで「戒名料」は支払っているはずなので、返納するならむしろ戒名料を返してもらうのが筋です。返納するときに再度支払いをするのは、本来はおかしな話です。
一方、お墓から両親の遺骨を移すために、「魂抜き」などの供養をしてもらうと思いますので、その供養料としてのお布施代は必要です。そういった供養料だけでしたらお布施相場は1~5万円で、支払うこと(つまり寄付をすること)自体は常識的な行為です。お坊さんといえども現実には生活もありお金も要りますので、こうしたお布施を常識的な範囲でお渡しすることはマナーでもあり、必要なことです。
ただ、もともと檀家になる際や戒名を頂いた際に、あなたと寺院との間で何らかの契約書を交わしていない限り、法的には高額の「戒名返納料」「離檀料」を支払う義務はありません。
もし、契約書や覚書があれば支払い義務が発生します。墓地の使用権を購入してお墓を建てた際に、寺院との間でそういった契約をしていないかをまず確認する必要があります。
その上で、法的に支払う義務のない「戒名返納料」「離檀料」は、もし支払いをするなら、名目上はお布施になります。お布施は「寄付行為」ですので、「30万円です」と金額を指定される種類のものではありません。
それでも支払えと言われた場合、「寄付の強要行為」となります。自発的な寄付であれば、お気持ち(常識的な金額)でオッケーです。このように、供養料や戒名料などのお布施は寺院への寄付金である、という原則を理解していれば、お坊さんとの話もしやすいです。
ただし、親戚にお墓を継いでもらうということですので、のちのち寺院との間で揉めたくないなら、お坊さんの言うことに素直に従って30万円支払い、キッパリ縁を切るという考え方もあります。いわゆる手切れ金です。お墓を人質にされている状態では交渉もしづらいからです。
まずは、
B、トラブルは嫌なので従う
のどちらかに方向性を決めることが先決です。
その際、親戚と十分相談することが大切です。最終的にはご自身で納得の行く方法で進めるしかありません。
もし納得が行かずお坊さんに抵抗する場合、次のような初期の対抗手段が考えられます。
1、そのまま支払いをせず、のらりくらりと様子を見る。
2、「戒名返納料に関して交わした契約書はありますか?」とお坊さんに問い合わせる。
⇒契約書がないなら法的支払い義務はありません。
3、「戒名返納料の請求書を送付してください」と言ってみる。
⇒寄付を請求するというビジネス上の取引の証拠は残したくありません。
4、「納得行かないので弁護士に相談してみます」と言ってみる。
⇒寺院側も法的なトラブルは避けたいと思うはずです。(なお、実際に裁判となると、戒名返納料以上の費用がかかります)
5、「マスコミに取材依頼をします」と言ってみる。
⇒寺院も、マスコミなどに取り上げられて面倒なことにはなりたくないはずです。
以上の対策は揉めることもありますので、あくまでもご自身の判断と責任の上、対応してください。
まとめ
以上、「檀家をやめる際、「戒名返納料」「離檀料」を請求されたらどうする?」について解説しました。
近年はこうした離檀トラブルを専門に扱う行政書士もいるようです。それだけ問題やトラブルが増えてきているということです。まずは、親族・関係者とよく相談した上で、進めてください。