魂抜き(たましいぬき)やお性根抜き(おしょうねぬき)の法要(ほうよう)では、お坊さんにお布施(おふせ:謝礼のこと)を渡します。その際、
2、表書きや裏書きをどのように書けばいいか?
3、お坊さんへどのように渡せばいいか?
という相談をよく受けます。
魂抜き・お性根抜き法要とは、「仏壇を整理処分したり、お墓を改葬・仕舞いしたりする際に、宿っている魂をお坊さんに抜いてもらう仏教儀式」のことを指します。この法要は閉眼供養(へいがんくよう)ともいいます。
多くの人にとって、葬儀やお通夜などは参列する機会も多く、香典袋については書き方や渡し方の作法についてはある程度理解しています。
一方、魂・お性根抜きの法要は、ほとんどの人は「一生の内に一度あるかないか」という仏事になります。そのため、この時お坊さんへ渡すお布施袋の書き方や渡し方については、あまりよく知らない人がほとんどです。
【お坊さんにお布施袋を渡しているところの例↓】
ただ、あまり神経質になることはありません。魂抜き・お性根抜き法要は弔事(お悔やみ事)ではないため、お布施は「1、適した袋の選び方」「2、表・裏面の書き方」「3、渡し方」の最低限のマナーさえ知っていれば、心配することはありません。
今回は、「魂抜き・お性根抜きにおける、お布施袋の書き方と渡し方のマナー」について解説します。
1、お布施袋はどんなものを使えばいいのか?
1-1、お布施の本来の目的とは?
お布施の一番の目的は、お坊さんへの感謝とお礼を伝えることです。魂抜き・お性根抜きの読経・供養をしていただいたお礼の気持ちになります。
そのため、葬儀やお通夜などの弔事で遺族に渡す香典とは意味合いが違います。お布施は遺族に対するお悔やみの金品ではありません。したがって、原則的には水引のついた不祝儀袋を使わなくてもよいとされています。
ただ、現実には、地域・宗派の違いなどにより、お布施袋にもいろいろなタイプのものが使用されています。お布施袋のタイプや中袋の有無などによって、若干書き方も違ってきます。以下ではそのお布施袋の4つのタイプについてみていきます。
【お布施袋のいろいろなタイプ↓】
1-2、お布施袋の4つの種類
お坊さんにお渡しするお布施袋には大きく以下の4つのタイプがあります。それぞれ地域や宗派によって使われ方が違います。
タイプ1:水引なしの無地に「御布施」と書かれたお布施袋
タイプ1のお布施袋は、水引が付いておらず「御布施」と印刷された市販の袋です。または、無地の封筒に自分で「御布施」と墨で書いてもかまいません。いずれも水引はなしです。このタイプはどのような仏事でも使える万能お布施袋です。もし迷ったら、魂抜き・お性根抜きでのお布施袋はタイプ1を選んでおけば問題ありません。
安価な単純封筒タイプのものと、少し高級感があって見栄えのする、折って使用する多当折りタイプ(中袋付き)のものがあります。多当折りタイプの中にも、無地のものと装飾柄付きのものがあります。
【水引なしのお布施袋の例①(単純封筒タイプ)↓】
【水引なしのお布施袋の例②(無地、多当折りタイプ、中袋付き)↓】
【水引なしのお布施袋の例③(装飾柄入り、多当折りタイプ、中袋付き)↓】
単純封筒タイプのお布施袋は、数千円から1~2万円程度までを包む場合に適しています。また、多当折りタイプのお布施袋は、3万円~10万円以上を包む場合に適しています。無地より装飾柄付きのほうが少し高級感があります。
こうしたタイプ1のお布施袋は、宗派を問わずあらゆる仏事で使えますので最も無難です。ただ、地域によってはあるいは宗派によっては、水引のついた不祝儀袋を使う場合もあり、次に解説します。
タイプ2:黒白の水引がついた不祝儀袋
黒白の水引がついた不祝儀袋は、一般的には通夜・葬儀での香典や、その後の仏事での遺族への御仏前を包む際に用います。また、地域によっては次の写真のように、お坊さんへのお布施を包む際に用いられることがあります。
【黒白の水引がついたお布施袋の例↓】
ただ、お布施袋として使う場合は四十九日までの場合(いわゆる弔事)が多く、それ以降の仏事には、タイプ1の【水引なしの無地封筒に「御布施」と書かれたお布施袋】を使うほうが無難でしょう。したがって、魂抜き・お性根抜きの場合は、タイプ1のお布施袋が無難です。
心配なときは、あなたが檀家さんであれば、檀那寺のお坊さんに一度確認してみると安心です。
タイプ3:黃白の水引がついた不祝儀袋
黃白の水引がついた不祝儀袋は主に関西地方で用いられます。一周忌以降の仏事で、遺族に渡す御仏前を包む場合や、お坊さんに渡すお布施袋として用いられることが多いです。関西以外では、あまり見られません。
【黄白の水引がついたお布施袋の例↓】
ただ、こうした黄白の水引がついた袋を使用するのは一周忌以降からで、四十九日までは黒白の不祝儀袋を使用するのが一般的です。
したがって関西エリアで、魂抜き・お性根抜きのお布施を渡す際は、黄白の水引がついたお布施袋か、水引なしのお布施袋がよいでしょう。
宗派により違いがあり心配な人は、檀那寺のお坊さんや実際にお布施を渡す予定のお坊さんに一度確認してみるのが確実です。お坊さんに聞けなかったり、どうしたらよいか迷ったりしたら、タイプ1の水引なしのお布施袋を選んでおけば無難です。
タイプ4:双銀の水引がついた不祝儀袋
双銀(銀色×銀色)の水引がついた不祝儀袋は、黒白の水引の袋と同じように、一般的には通夜・葬儀での香典や、その後の仏事での遺族に渡す御仏前を包む際に用います。地域により、お坊さんに渡すお布施や戒名料を包む際にも用いられることがあります。
【双銀の水引がついたお布施袋の例↓】
黒白の袋との主な違いは、双銀の袋は比較的包む金額が多い場合(5万円~数十万円)に用いられることが多いです。寺院の格式が高くお布施金額も相当料を要求される場合などは、このタイプ4の双銀の水引がついたお布施袋を使用する例が多いです。
金額がそれほど高額でない場合(5万円以下)は、先述のタイプ1~3を使用します。魂抜き・お性根抜きの供養の場合は、タイプ1~3が無難です。
次に、お布施袋の書き方について解説します。
2、お布施袋の書き方、お金を入れる向き
2-1、お布施の表面の書き方
魂抜き・お性根抜きの供養に限らず、お布施袋の書き方はすべての仏事で共通しています。まず、お布施袋の表書きですが、どのタイプのお布施袋でも共通して、漢字で上部に「御布施」と書きます。または、市販の「御布施」と印刷されたお布施袋を使用します。
お布施以外に、交通費であるお車料や、宴席代であるお膳料を渡す場合は、それぞれ「御車料」「御膳料」と記してください。ただ、魂抜き・お性根抜きの供養では、一般に法要後の宴席をすることはありませんので、御膳料は考えなくてもよいでしょう。御車料についても、遠方から来るお坊さん以外は特に不要です。
それぞれの袋の下部には、「名字のみ(例:鈴木)」または「フルネーム(例:鈴木一郎)」と書きます。サイト管理人の私であればこんな感じです↓
【お布施袋の表面の書き方例①(苗字のみ)↓】
【お布施袋の表面の書き方例②(フルネーム)↓】
【御車料、御膳料などの書き方例↓】
2-2、お布施の裏面の書き方(中袋がない場合)
裏面ですが、お布施袋に中袋がついている場合とついていない場合で書き方が若干変わります。
中袋のない単純封筒タイプのお布施袋の場合は、裏面に、「住所、氏名、電話番号、金額」を書いておけば、よりていねいです。
お布施はお坊さんに対する労働対価ではありませんので、本来は金額を書く必要はないとされています。しかし、寺院の記録や経理・税務上、「書いてあった方が都合がよい」とお坊さんから聞きます。そのため、書いておいたほうがより親切です。
なお、省略する場合は、住所などは書かずに金額のみでもオッケーです。
【封筒タイプのお布施袋の裏面記入例↓】
2-3、お布施の中袋の書き方(多当折りタイプの場合)
単純封筒タイプではなく、包むタイプである多当折りのお布施袋には、通常、中袋がセットになっています。こうしたタイプの場合は、外包みの裏面ではなく中袋に書きます。中袋の一般的な書き方は、表面に金額、裏面に住所・氏名・電話番号などを書きます。
【中袋の表面の書き方例↓】
【中袋の裏面の書き方例↓】
なお、中袋を上包みに包んで入れる向きは、中袋・上包みそれぞれの表面・裏面が同じ向きになるように揃えて包みます。次の写真のようになります。
【中袋を上包みに入れる向き(表面)↓】
【中袋を上包みに入れる向き(裏面)↓】
2-4、漢数字の書き方
金額は算用数字(1、2、3)ではなく、以下に示すような漢数字(壱、弐、参)で書きます。さらに数字の頭に「金~」、最後に「~圓也」を入れます。
▶使用する漢数字:壱、弐、参、四、伍、六、七、八、九、拾、百、阡、萬
▶単位:圓
記入例
5,000円⇒金伍阡圓也
10,000円⇒金壱萬圓也
30,000円⇒金参萬圓也
35,000円⇒金参萬伍阡圓也
50,000円⇒金伍萬圓也、または金五萬圓也
100,000円⇒金壱拾萬圓也
【金額の記入例↓】
2-5、筆の選び方
なお、お布施袋の表書きは、できるだけ毛筆で書きます。そして、うす墨(薄い墨)ではなく濃墨(普通の真っ黒な墨)を使用します。
葬儀などお悔やみ事・弔事では、親族に渡すお香典はうす墨で書く習慣があります。ただ、お坊さんに渡す、お悔やみ事でないお礼としてのお布施は、普通の真っ黒な墨で問題ありません。
葬儀など急な弔事では、墨をゆっくり磨る時間がなく、薄い墨のまま急いで書いて駆けつける、ということが薄墨の由来です。したがって、お布施は、お坊さんに対してしっかり準備しましたということを示すために濃墨が良いとされています。
このときに使用する筆は、市販の筆ペンが便利です。なお、筆ペンには濃墨用とうす墨用があるので間違えないようにしてください。最近は、サインペンの感覚で書ける筆ペンもあります。
ちなみに、だんだんと薄墨の習慣はなくなっているようです。地域によっては濃い墨のお香典でも作法違反ではないとされているようです。。
【うす墨と濃墨の例↓】
【いろいろな筆ペンの例↓】
2-6、お札(お金)の入れ方
使用する紙幣に関しては、お布施の場合、古いお札ではなく新札を使用します。
葬儀でのお香典などでは、古いお札を使ったり、新札にわざわざ折り目を入れたりして使用します。これは「不幸に対してあらかじめ新札を準備している」という失礼を避けるためです。
その一方で、魂抜き・お性根抜きの供養などのお布施はあらかじめ準備しておくものなので、新札を用意するようにします。
なお、袋にお金を入れる向きですが、お布施袋の表面に肖像画(=福沢諭吉さん)がくるように入れます。お香典とは反対の向きになるので注意してください。
【お金を入れる向き(封筒タイプ)↓】
【お金を入れる向き(中袋の場合)↓】
まとめますと、多当折りタイプのお布施の「お金・中袋・上包み」の、それぞれの包む向きは次の写真のようになります。
【お金・中袋・上包みの向き】
また、上包みの包み方は、もともとお布施袋を購入した時に折ってあった包み方をそのまま再現すればオッケーです。通常は、裏面が上から重ねるようになる仏事用の包み方になっています。
【裏面の重ね方↓】
3、お坊さんへのお布施袋の渡し方の基本
一般にお布施を渡すタイミングは、魂・お性根抜きの読経が終わり、お坊さんが帰られる直前にお礼を申し上げながら渡します。お茶やお茶菓子などといっしょに出すと、感謝の気持ちがより伝わります。
そして、お布施を切手盆(きってぼん)という四角いお盆に載せて渡します。正式には、切手盆と袱紗(ふくさ)を併用します。袱紗とは、平たくいえば「ふろしき」のようなものです。
ただ、魂抜き・お性根抜きの法要では、袱紗のようにあまり形式張ったことをする必要はありません。ただ、最低限の作法として、切手盆にお布施をのせて渡すことをおすすめします。お布施袋をそのまま裸で手渡しするのは、マナー違反ですので避けてください。
以下では、魂抜き・お性根抜きの供養で、自宅や法要会場などへお坊さんに来ていただいた場合の、切手盆のみを使ったお布施の渡し方について説明します。一般には、この切手盆での渡し方を知っていれば、最低限お坊さんに対して失礼になることはないでしょう。
3-1、お布施を渡す時に使用する道具
お布施を載せる小さなお盆を、「切手盆(きってぼん)」と言います。切手盆とは、ご祝儀やお布施などをお渡しするときに使う、冠婚葬祭用の小さなお盆のことをいいます。祝儀盆や名刺盆などと呼ばれる場合もあります。
【切手盆にお布施を載せた例↓】
24cm✕17cm程度(8号サイズ)または、21cm✕15cm程度(7号サイズ)の大きさがもっとも一般的でお手軽です。もともとは、広蓋(ひろぶた)と呼ばれる切手盆より大きなサイズ(39cm✕27cm=13号)のものが正式であったのですが、切手盆はその広蓋(ひろぶた)の略式版と言えるでしょう。
【8号サイズ(24cm✕17cm程度)の切手盆の例↓】
【7号サイズ(21cm✕15cm程度)の切手盆の例↓】
【広蓋の例↓(出典:アマゾン)】
つまり、切手盆は、ご祝儀・結納・お香典・お布施などをお渡しする場合に使用する、作法小道具の現代略式版です。
略式版とは言っても、かつては正式な広蓋(ひろぶた)を使用していた地域やご家系でも、最近では少し大げさすぎるということで、この切手盆を使用する場合が多くなってきました。
一般的な仏事を始め、魂抜き・お性根抜きの供養で、お布施をお渡しする場合は、この切手盆を使います。
3-2、切手盆を使ったお布施の渡し方
切手盆の使い方です。自宅などで魂抜き・お性根抜きの供養をお願いした際、おおむね5万円程度以下のお布施をお坊さんにお渡しする際の、切手盆のみを使用した簡単なお布施の渡し方について説明します。
お布施の渡し方手順
手順1:お布施をお渡しする準備をします。切手盆をまず自分の方へ向けて置きます。絵柄や家紋がある場合は自分側へ、ない場合はどちら向きでもオーケーです。
【1、切手盆を自分の方へ向けて置く↓】
手順2:切手盆の上にお布施を載せます。この時、お布施の置き方は、自分が文字を読める向きに置きます。
【2、切手盆の上にお布施を載せる↓】
手順3:切手盆の上下(右上と左下)を持ちます。
【3、切手盆の上下を持つ↓】
手順4:時計回り(右回り)にまず90度回します。
【4、90度回す↓】
手順5:手を上下に持ち替えてさらに90度回し、お坊さんから見て正しい向き(文字が読める向き)にします。(読経中にここまで準備しておいてもよいかと思います。)
【5、さらに90度回して向きを変える↓】
手順6:一連の読経が終了したら、お礼を述べながら、お坊さんへ差し出します。
お礼の口上は
「本日はありがとうございました。些少ですがどうぞお納めくださいませ。」
などが無難です。
【6、お坊さんへ差し出す↓】
手順7:お坊さんがお布施をお受け取りになり、切手盆を返されたら受け取ります。
【7、切手盆を受け取る↓】
以上が、切手盆のみを使用してお布施をお渡しする作法です。また、もしお車料やお膳料を同時に渡す場合は、切手盆の下から順にお膳料、お車料、お布施と重ねます。
【下から順にお膳料、お車料、お布施を重ねた例↓】
以上、「魂抜き・お性根抜きにおける、お布施袋の書き方と渡し方のマナー」について解説しました。これらの作法は、唯一絶対のものではなく、最低限の作法として考えてください。現実には、各地域や宗旨宗派や寺院の慣習、また時代の移り変わりとともに変わります。
ただ、今回お伝えしたようなお布施袋に関する「1、適した袋の選び方」「2、表・裏面の書き方」「3、渡し方」など、最低限のマナーを知っておくことは大切です。そして、やはり「心をこめて感謝の気持ちを伝える」ということを、忘れてはならないと思います。
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