前回、前々回と、「孤独死発見時の初期対応」と、「孤独死発見後の緊急対策」について説明をしました。
これらの初期対応と緊急対策が一段落すれば、次は部屋の本格的な消臭作業が必要になります。なぜなら、そのまま部屋の中を放置しておいても、長期間臭いは消えていかないからです。そして、腐敗臭を本格消臭するためには、部屋の原状回復処理などを同時に行う必要があります。
すなわち、室内に残された不要遺品類の搬出処分、床や壁に付着した体液・血液及びその付着物の撤去や、消毒・清掃、必要に応じた最低限のリフォームなどです。室内に残されたこれらのものが臭いの発生源となっているのです。
孤独死の部屋の臭いはなかなかとれないと言われています。ただ、心配する必要はありません。キチンと手順を踏んで対応すれば、ほとんど問題なく消臭することができます。
今回は、「孤独死後の部屋の本格消臭方法」について解説します。
ステップ1 遺品類・家具などの整理~撤去
室内の本格消臭処理に入る前に、まずは住居人の遺品類を整理~撤去しなければなりません。腐敗臭の付着・浸透した遺品や家具などを残したまま、いくら消臭作業をしても臭いは残ったままになるからです。
残された遺品類は故人の財産ですから、管理会社さんや大家さんが勝手に処分することは、法的にはできません。そこで、親族や相続人に、必要な物や重要な物、あるいは思い出の品などの選別・保管をしていただき、不要遺品の処分についても承諾を得る必要があります。
【遺品類の選別】
また、親族や保証人が音信不通や、責任放棄をしている場合は、本来であれば専門家などに依頼し、法的手続きを踏んだ上で対処しなければなりません。しかし現実問題として、腐敗臭の染み付いた遺品類を、長期間放置または保管することは困難です。
現金・証券類などの貴重品や、写真類などを除いて、それら以外のものは処分せざるを得ないというのが実際のところです。このあたりについては相談できる法律家(弁護士など)をあらかじめ調べておくことも必要でしょう。
いずれにしても、部屋の腐敗臭を本格的になくするためには、まず室内の遺品類・家具・備品などをすべて整理~撤去する必要があります。この作業を行うためには、事前に以下のステップ2の近隣居住者対策を行なっておくと、比較的スムーズに進めることができます。
ステップ2 近隣居住者への配慮
近隣居住者、特にマンションなど集合住宅では、孤独死の発生を隠し通すことは難しいです。管理会社や大家さんのとって怖いのは風評被害です。ただ、風評被害は以下のような対応次第でかなりコントロールは可能です。
孤独死の噂が広まっていない場合
まず、噂がそれほど広まっておらず、マンション居住者にできるだけ知られたくない場合の対策です。室内の遺品類の整理~撤去や消臭作業は、出勤時間など人の出入りが多い時間帯を避け、午前9時または10時以降に作業を開始し、午後3時頃までに終えるようにします。この時間帯は、居住者と顔を合わせる機会が比較的少ないからです。
【マンション近隣対策は重要】
孤独死の噂が広まっている場合
また、すでに多くの居住者に知られている、クレームが多数発生しているなどの場合は、隠すよりもむしろ、今後適切に消臭対策などを速やかに行なう旨を、適確に真摯に伝えるほうが賢明です。作業予定時間や、その間臭いが漏れるので窓を閉めてもらうなど、各種通達をしておきます。
部屋のご供養対策
また、お坊さんに読経にきてもらうなど、部屋のご供養対策などもきちんと行う旨を伝えておくと、近隣居住者は安心するでしょう。臭いの拡散など迷惑は避けられませんが、供養を行うことによって少しでも近隣居住者の気持ちを落ち着かせることができます。
【部屋のご供養・読経】
ステップ3 消臭作業の実際の流れ
殺虫作業
以上の近隣居住者への配慮が整えば、本格的な室内の整理~撤去作業に入ります。ハエなどが飛び回っている場合は、室内作業がスムーズにできるよう、まず殺虫剤の噴霧をします。殺虫剤は市販の殺虫スプレーで十分です。
【殺虫スプレー】
消毒作業
次に感染などに対処するため、殺菌消毒剤を散布するとより安全に作業できます。殺菌消毒剤は、塩化ベンザルコニウムや安定化二酸化塩素などが有効です。薬局やネットで購入できます。使用上の注意をよく守って、園芸用の噴霧器などで散布します。殺菌消毒剤は人体に悪影響を及ぼす可能性があるので、下記の防護マスク着用など安全対策を行なってください。
【園芸用の噴霧器】
殺虫~消毒後に、まず遺品類の整理撤去をします。なお、各作業には安全性や作業効率性から、必要に応じ、防護メガネ、防護服、防護マスクなどを着用すると安心です。ホームセンターなどで手に入る使い捨ての作業服や、ネット通販などで手に入る防護セットなどがよいでしょう。
【使い捨ての作業服】
【防護セット】
また、室内の腐敗臭がひどい場合、そのままでは気分が悪くなり、作業が困難です。そのような場合は、防臭マスク(防護マスク)を着用してください。おもに塗装現場用などに使用されているマスクです。臭いを吸着する効果のある「吸収缶」を、マスクにセットして使用します。これで、作業中の腐敗臭はほとんどカットできます。
【吸収缶(左)と防臭マスク】
【マスクに吸収缶をセット】
【防護服と防臭マスクを装着】
汚染物の撤去
次に、室内の体液血液などで汚染された物(ふとん・ベッドなど)を撤去搬出します。搬出運搬中に臭いが漏れないようビニール袋などでしっかり梱包します。同時に、その他の不要遺品類をすべて搬出します。(ご家族、保証人などの同意が必要です)
【不要遺品類の整理】
壁・床材の処理
体液血液汚物などが、床・壁面に固まらずに液状のまま付着している場合は、まず拭きとり清掃します。また、特に体液が付着浸透した床・壁面は、拭き取り清掃だけでは、腐敗臭は消えませんので、はがして撤去します。汚染物が付着していない部分でも、たとえば壁のクロスなど、可能なかぎり全て撤去することが望ましいです。
もし、撤去せずそのままにしておくと、長期間臭いを発生し続ける可能性が大です。さらに、壁材・床材をはがしたあとの下地面(コンクリートやボード木材)に、体液などの汚染物が浸透していないかを、直接臭いを嗅いで確認します。目視だけではわからない場合も多いからです。
もし下地材にまで浸透している場合は、ボード材等なら撤去、コンクリート面ならハツリなどで完全撤去します。ちょっとしたリフォームというイメージになります。
直接撤去できない部分の表面に染み付いた臭いを拭きとります。たとえば、窓ガラス、サッシ、キッチン台、バス・トイレ、ドア、柱などです。腐敗臭(死臭)の主な原因は、人体に含まれる脂分が腐敗した粒子であり、体液が直接付着・浸透していない部分は、油用洗剤などで拭きとることにより臭いが軽減されます。
【拭き取り清掃】
ここまでの作業で、ほとんど腐敗臭は感じないようになっています。少なくとも、近隣に迷惑をかける限度は下回っているはずです。
最後に、病院の解剖室などでも使用されている、塩素系の消臭殺菌剤である安定化二酸化塩素液を噴霧すると、さらに効果的でしょう。入手できない場合は、窓などを開放して、空気を循環させてください。
そのまま数日間放置し、ハエなどの二次発生や残存臭の有無を確認します。問題なければ完了です。臭いに問題がある場合は、再度上記作業をチェックしてみます。また、ハエについては発生がなくなるまで根気よく(1カ月程度)殺虫剤にて対応します。
今回は、「孤独死後の部屋の本格消臭方法」について解説しました。手順に従って対応すれば、ほとんど問題なく消臭することができますので、あわてずひとつずつ進めてください。
なお、孤独死の部屋の供養については、下記の記事を参照してください。