私は仕事の関係で、「白い位牌と黒い位牌の違いって何ですか?」とよく聞かれます。確かに、「同じように、家系や故人の名前が書かれたお札」であるのに、白い(白木の)位牌と黒い(黒塗りの)位牌があることに疑問を持つことは不思議ではありません。
実は、白いものは仮の位牌で、黒いものは正式な本位牌なのです。そして黒い位牌にも一枚の板状のものもあれば、何枚もお札が重なって入っている箱型の位牌もあるのです。
【位牌3種類】
このように、仏壇の前で、普段私たちが何気なく手を合わせて拝んでいる位牌ですが、そもそもこの位牌とはいったい何なのでしょうか?
ご先祖様の名前や、よく分からない戒名とかが書かれていますが、何か意味があるのでしょうか?また、親族が亡くなったら、位牌は必ず作らないといけないものなのでしょうか?
今回は、普段私たちがあまり深く考えない位牌について解説します。
位牌とは何か?
仏壇を持っている家庭の多くは、仏壇の中に、家系の名前や故人の名前が書かれた黒い縦長の板状のものがあると思います。これが位牌です。高さが20cmを超える大きなものから、10cmより小さなものまでいろいろなサイズのものがあります。
【本位牌】
位牌とは、「家の継承と家の継続への思い」を形に現したもので、先祖の霊魂を祀る(まつる)木製のものです。ときどき紙製の位牌もあります。
そして位牌には、「故人や先祖の魂が宿っている」と言う考えのもと、日々ご供養をし、また感謝の気持ちを伝える対象になっています。
位牌には、なんとなく荘厳で近寄りがたいというイメージがあります。たとえば私の実家では、「仏壇の中にある位牌には触れてはいけない」と教えられていました。そのため、私は自分のご先祖様のお位牌に触れたことがありません。
ほとんどの方は、位牌に直接触れることはあまりないでしょう。ただ、普段手を合わせる習慣があるにもかかわらず、多くの方は位牌のことについて、あまりよくわかっていません。
位牌と言う名称の語源は、霊魂をいつき祀る「斎木(いはひき)」というものであり、この「斎ひ祀る(いはいまつる)」から「いはい」という名称になったということです。
位牌には名前が書かれています。一般的には、表面に戒名、裏面に俗名(生前名)と没年です。
戒名とは、平たくいえばお坊さんに授けてもらった名前のことです。
戒名のルーツは、親族が亡くなったその日に、僧侶に依頼して菩薩戒を唱えてもらうことに由来します。菩薩戒とはお経のようなものと考えて下さい。
戎を受けることにより、仏弟子になる。すなわち出家者になる。出家者には出家者としての名前が与えられる。これが戒名であり、戒名を授ける日本の習慣はここから始まったとされています。
このように、位牌には先祖の魂・霊が宿っていますので、大切に扱わなければいけません。位牌に手を合わせ、日々感謝することによって、私たちは先祖供養をしているのです。
位牌の種類
位牌は色別に大きく2種類に別れます。一つがお仏壇の中にある黒い位牌です。もう一つが、葬儀やその後の初期の仏事に使用される白い位牌「白木の位牌」です。
白木の位牌は、親族が亡くなり急遽作った仮の位牌です。一方黒い位牌は、葬儀など一連の儀式が終わったあと、本格的に作った本位牌、つまり正式な位牌ということになります。
【白木位牌と本位牌】
黒い本位牌には、一枚物の板状のものと、「先祖や故人の名前が記されたプレート」が何枚も中に納めることのできる、箱型の「繰り出し位牌」というものに、大きく2種類に分けられます。
【繰り出し位牌】
仮の位牌である白木の位牌は、葬儀から四十九日まで一通りの儀式が済んだあと、黒塗りの本位牌に作り変えます。そして、もとの白木の位牌は処分します。このとき、白木の位牌から魂を抜いて、黒塗りの本位牌に魂を移し替えて入れます。
このように魂を抜く儀式を、「魂抜き(たましいぬき)」「お性根抜き(おしょうねぬき)」「閉眼供養(へいがんくよう)」といい、魂を入れる儀式を、「魂入れ(たましいいれ)」「お性根入れ(おしょうねいれ)」「開眼供養(かいげんくよう)」といいます。
また、もし位牌の面倒が見られなくなって手放す場合は、寺院に引き取ってもらい永代供養に出すか、あるいは魂・お性根を抜いてから、お焚きあげなどの処分をするのが慣例です。
位牌はもともと仏教と無関係?
位牌のルーツを知っておくと、いざあなたが位牌を作る状況になった場合、役に立ちます。お坊さんの言うとおりにするのも一つですが、位牌の知識があれば、自分の意志で最終決定できるからです。
さて、仏教は今から二千数百年前にインドで始まり、アジアの様々な国々に伝わり、そこを経由してさらに拡大していきました。経由した地域ごとに、さまざまな文化や習慣が伝わり、仏教も変化していったのです。
つまり、もともとインド仏教にはなかった「先祖崇拝」や「先祖供養を形に現した位牌」という概念が、中国を経由して日本に伝わったのが、位牌のルーツです。
中国は、儒教と仏教と道教がお互いに影響しあっている宗教社会です。その中で、現在の日本の葬式の儀式に関しては儒教の考え方が大きく影響しています。
今日私たちがとり行っている仏式葬儀の基礎を築いたのは禅宗であり、また位牌も禅宗から始まりました。この禅宗作法について書かれた規則集に、葬儀の進め方や位牌についてのことも書かれてあり、これが日本に伝わったのです。
ちなみに位牌について書かれた一番古い記録によると、足利尊氏公の葬儀に位牌が用いられたということです。もともとお釈迦様の古い時代から位牌はあったと思われがちですが、実は鎌倉時代あたりから始まった習慣だったのです。
位牌は必ず作らないといけないか?
「位牌は必ず作らないといけないのですか?」と聞かれることがあります。もちろん、絶対に作らないといけないという法律はありません。
宗教上の信仰の問題なので、宗旨宗派によっても考え方は変わりますし、ご先祖様に対する感謝や思いの度合いによっても変わると思います。
実際に位牌を持たないご家庭や、位牌の置かれていない仏壇もたくさんあります。前述したように位牌は、祖霊信仰つまり、先祖供養の一つの形に過ぎません。
位牌でなくても別の形で祖霊信仰はできますから、位牌は絶対に必要とはいえません。ただし、あなたが寺院の檀家さんなら、お坊さんは「位牌は必要」というかも知れません。
ただ、先祖供養の対象は位牌だけでなく、あなたに先祖への深い思いと感謝の気持ちがあるなら、遺影・仏像・形見品・遺骨カプセルなどでも可能です。
【仏像】
これからの時代は、お坊さんや寺院の言いなりになるのではなく、あなたがやりやすい、そして納得のできる先祖供養の形を選択するのも一つの方法だと思います。
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