継承できなかったり、面倒を見られなくなったりなど、さまざまな事情で仏壇を処分する人が増えています。ただ、「仏壇は手放しても、位牌は手元に残しておきたい」という人もいます。
そうした場合、位牌はどのようにして保管したり、祀(まつ)ったりすればよいのかわからないという相談をよく受けます。位牌の住居とも言える仏壇がなくなってしまうわけですから、新たにどのような場所に置くべきなのか、困ってしまいます。
ただ、あまり悩むことはありません。仏壇なきあと、位牌をどのように保管するかは、「あなたがその位牌をどういう思いで持ち続けたいのか?」によって変わります。たとえば、大きく分けて次のようなパターンが考えられます。
パターン2:メモリアル(想い出品)として、単に位牌を持っておきたい
パターン3:将来、永代供養に出すまでの間だけ、位牌を一時保管したい
このように、それぞれの事情や希望によってによって対応が変わります。
【いろいろな位牌の例↓】
今回は、いくつかの事情別に「仏壇を処分した後でも位牌を持ち続ける方法」について、位牌の保管の仕方や、祀り方などを解説します。
1:位牌と仏壇の関係
1-1:そもそも位牌とは何か?
位牌が本来どういうものかを知っていれば、仏壇処分後の位牌の扱い方に役立つかもしれません。位牌とは、「家の継承と家の継続への思い」を形に現したもので、先祖の霊魂を祀る(まつる)木製または紙製のお札です。
位牌には、「故人や先祖の魂が宿っている」と言う考えのもと、日々ご供養をし、また感謝の気持ちを伝える対象になっています。ただ意外にも、「位牌はもともと仏教とは関係のないものだった」と言うことはあまり知られていません。
仏教は今から二千数百年前にインドで始まり、アジアの様々な国に伝わり、それらを経由してさらに拡大していきました。経由した地域ごとに、さまざまな文化や習慣が伝わり、仏教も変化していくのです。
こうした変遷の中、もともと発祥であるインド仏教にはなかった「先祖崇拝や先祖供養を形に現した位牌」という概念が、中国を経由したことによりミックスされて日本に伝わったのが、位牌のルーツです。
お釈迦様の古い時代から位牌はあったと思われがちですが、実は鎌倉時代あたりから始まった中国経由の習慣だったのです。そして、もともと位牌は寺院に納牌する(位牌を納め預ける)のがならいでした。位牌が家でまつられるようになったのは、江戸時代になってからです。
江戸時代になって、寺請制度(檀家制度)が行き渡り、一般の人々の間に死者の霊魂が「仏さま」と呼ばれるようになり、死者は寺の墓地などに埋葬されるようになりました。庶民における墓地埋葬の習慣の始まりです。
こうして、手元に故人の遺骨を置く代わりに、位牌が死者の霊魂の依り代、霊魂の代わりとして、供養の対象になっていきました。位牌は遺骨の代わりになるものといえます。
このきっかけとなった寺請制度(檀家制度)とは、「日本人は、必ず仏教のどこかの宗派に属しなさい」という徳川幕府の法律です。この制度により、庶民はくまなくいずれかのお寺に所属義務が発生し、登録管理されるようになりました。
つまり、現在のように信教の自由はなく、強制的に仏教徒にされたのです。そして、その証拠・証明品として、各家庭に広く仏壇が普及していきました。
1-2:位牌と仏壇の関係とは?
仏壇とはひらたくいうなら、お寺のミニチュア版です。仏壇を持っていることは、すなわち家の中に小さなお寺があるということになります。平安時代から少しずつ一般庶民に広まり始め、江戸時代に檀家制度によって、一気に広まりました。
したがって、寺院のお堂に仏像が安置されているのと同じように、仏壇は本来、仏像を安置するところです。ただ、仏壇を持つ多くの家庭では、どちらかと言えば仏壇の主役は位牌になっています。つまり、位牌に名前が刻まれた故人・先祖を供養することが主目的になっているのが実情です。
ただ、一般的には、仏壇内に故人の直接の遺骨や遺灰が納められているわけではありません。故人そのものの直接的・物質的な名残は仏壇内にありません。ただ、名前の書いた札があるだけです。(一部のお墓を持たない人は、仏壇内に遺骨や骨壷を置いている場合もあります)
【仏壇内の位牌や骨壷の例↓】
このように時代とともに、遺骨の代わりとして、位牌が死者の霊魂の依り代や霊魂の代わりとして、仏壇内に祀られるようになったのです。したがって、位牌にとって仏壇は、家であり住居であるといえます。
2:仏壇なしでの位牌の保管や祀り方
さて、事情で仏壇を処分しなければならなくなった場合、「住み家のなくなった位牌」を持ち続けるには、どのようにすればよいのでしょうか?仏壇処分をする時に、位牌なども同時に供養処分する人がほとんどですが、位牌を手元に持っておきたい人がいるのも現実です。
本来は、菩提寺(檀家になっている寺)に位牌を預かってもらうのが一番よいのですが、寺院と疎遠になったり、縁が切れていたりする場合も多いです。そのような場合でも、仏壇なしで位牌を持ち続けるには、以下の3つの状況が考えられます。
パターン2:メモリアル(想い出品)として保管したい場合
パターン3:いずれ永代供養に出したい場合
それでは、ひとつずつ見ていきましょう。
2-1:パターン1:継続して供養をしたい場合
仏壇を手放したあとも引き続き位牌を供養していく場合は、位牌そのものは魂・お性根抜きをせずにおきます。仏壇や仏像(掛け軸)などはお坊さんに読経をあげてもらって、きちんと供養をしてから処分をします。
ただ、位牌は日々供養をしていくわけですから、故人や先祖の魂・お性根は入れたままにしておきます。そして、仏壇という入れ物がなくなりますから、位牌は床面や低い場所に置くのではなく、できるだけ目線程度以上の位置に祀る(まつる)と日々の供養もしやすくなり、先祖にも失礼のない祀り方になります。
仏壇の代わりに、仏壇のミニチュア版とも言える「厨子(ずし)」という入れ物に、位牌を入れておくのもよいでしょう。厨子とは、正面に観音開きの扉がついた小さな仏壇のような入れ物で、仏像・仏舎利・教典・位牌などを中に安置する役割があります。厨子は、広義では仏壇の一種、狭義では仏具の一種になります。
【厨子(ずし)の例↓】
【厨子に位牌を安置している例↓】
厨子などの入れ物がない場合は、たとえば、タンスの上や机の上などに祀ることになります。神棚のような専用の棚を作ってもよいでしょう。もちろん最低限の仏具を備えてください。ろうそく立て、線香立て、おりん、花立て、などです。仏壇あるいは厨子という入れ物がなくても、供養の目的は故人・先祖への感謝の気持ちを表すことです。あまり見た目にこだわらなくても気持ちが大切です。
2-2:パターン2:メモリアルとして保管したい場合
位牌を想い出の品としてただ保管しておきたいという人もいます。こうした場合は、供養の対象にはなりません。単なるメモリアルであり遺品の一種であるといえます。したがって、仏壇と同じようにお坊さんに依頼して魂・お性根抜きをしておきます。
魂・お性根抜きが終われば、位牌はただの名前の書かれた札になります。たとえば思い出の写真と同じようなイメージになります。白い布や白い紙に包んで、然るべき場所に保管してください。もしも最終的に不要になった場合は、お焚きあげ、つまり焼却する事をおすすめします。
【位牌を白い布に包んで保管している例↓】
2-3:パターン3:いずれ永代供養に出したい場合
仏壇は処分するけれども、位牌は今すぐではないが将来的に永代供養に出したいという人もいます。仏壇を処分するということはすなわち、当面面倒を見られなくなるということですから、位牌も一旦魂・お性根を抜いておきます。
魂・お性根抜きは、お坊さんに依頼して読経をあげてもらい供養していただきます。そして、永代供養に出す時期が来ればあらたに魂・お性根を入れるようにします。その間は、パターン2の「メモリアルとして保管する場合」の方法で保管します。
【お坊さんによる魂・お性根抜き供養の例↓】
もちろん、永代供養に出すまでの間、ご自身で位牌の供養を続けることが可能な場合は、パターン1の、「継続して供養をしたい場合」の方法がおすすめです。
3:どうするか方針が決まらない場合
さまざまな事情で、仏壇は処分せざるを得ないのだけれども、位牌はどうするか決まっていない場合もあります。あるいは、親族間で「誰が位牌の面倒を見るのか?」「どうすれば一番よいのか?」で意見がまとまらない、という話もよく聞きます。
このような場合は、方針が決まるまで、あるいは親族間の意見がまとまるまでは、上記パターン1~3のいずれか可能な方法で保管をしてください。一旦処分をしてしまうと、位牌の複製自体は可能ですが、持ち続けていた愛着のある古い位牌は戻ってきません。慎重な判断が必要です。
以上、「仏壇処分後でも位牌を持ち続ける方法」について解説しました。大切なことは、どのような方法を選択するにせよ、親族間で充分な話し合いをして、みなさん納得の上で方針を決定することです。これこそが、のちのち揉め事が起きないもっともベストな方法です。
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