仏壇の中によく見かける位牌を移動しなければならなくなった場合、そのまま動かしてもよいものかどうか迷うことがあると思います。
例えば、親が亡くなり位牌を継承して自宅へ持ち帰る場合や、引っ越しなどで位牌を移動させる場合です。
実際に仏教の多くの宗派では、位牌の移動時に「魂・お性根を一旦抜いてから動かす」という作法が一般的です。
今回は、「位牌を移動・引っ越しする場合に必要な供養とその方法」について解説します。
位牌とは何か?
そもそも位牌とは?
位牌とは、通常は仏壇内に安置されている黒い縦長の木のお札です。一般に、表面や裏面に戒名・俗名あるいは「〇〇家先祖代々」などの家系名などが刻まれています。
そのサイズは、高さが10cm~25 cmくらいが多いです。中には高さが50cmを超える大きなものや紙製のものもあります。
【よくある位牌の形状】
位牌は、「家の継承と家の継続への思い」を形にしたものです。ご先祖さまの霊魂が宿ると考えられ、その魂を祀る(まつる)対象物です。
日々ご供養をし、感謝の気持ちを故人や先祖に伝え敬うことが位牌の本来の姿です。
位牌の種類
位牌は大きく2種類に別れます。一つがよく見かける黒い(または茶色い)位牌「本位牌」です。もう一つが白い位牌「白木の位牌」です。
白木の位牌とは、親族が亡くなった際、葬儀や直近の仏事で使用するため急遽作る仮の位牌です。
一方黒い位牌は、葬儀など一連の儀式や四十九日が終わったあと、本格的に作る「本位牌」、つまり正式な位牌ということになります。一般に、本位牌を作ったあと、もとの白木の位牌は処分します。
【左:白木位牌(仮位牌)と、右:本位牌】
また、黒い本位牌にはさらに形状別に2種類あります。一枚物の板状のものと、薄い木の札が何枚も中に納められている箱型(ボックス形状)の「繰り出し位牌」という2種類です。
繰り出し位牌の中の木の札には、それぞれ1枚ずつ先祖や故人の名前が記されています。
【繰り出し位牌からお札を取り出したところ】
一枚物の本位牌に連名で戒名を刻む場合もあります。例えば夫婦の場合は並んで刻まれていることが多いです。ただ、ご先祖様が多くなってきた場合に、一枚物の位牌に収まりきれなくなり、繰り出し位牌を作ります。
【左から、白木位牌・本位牌・繰り出し位牌】
位牌の移動時に必要な供養儀式
位牌移動時の流れ
これらすべての種類の位牌に対し、移動・引っ越しする場合は以下の3ステップの流れになります。
2、位牌を移動する
3、移動・安置後に再度魂・お性根を入れる
この魂を抜いたり入れたりの供養儀式は、お坊さんに依頼することになります。依頼方法は後述します。
移動パターンと例外
ただ、一口に移動すると言っても、さまざまなパターンがあります。以下に、移動の種類と供養儀式の要・不要についてまとめました。
A:位牌の供養が特には不要なパターン
2、同一家屋内で部屋間移動をする
3、永代供養などのため、寺院に持参する
4、位牌を整理処分するため、業者引取りまたは送付する
B:位牌の供養が必要なパターン
2、同一マンション建物内で部屋間移動やフロアー移動をする
2、各種引っ越し
3、高齢者施設などへの入居移動
4、継承して持ち帰る
ただし、上記は一般的なパターンです。宗派や寺院・お坊さんによってはいろいろな考え方やポリシーがあり、実際には上記がすべて当てはまるとは限りませんので、個別に確認が必要です。
移動前後に魂抜き・魂入れをする理由
一般に仏教の多くの宗派では、初めて位牌を作った時に、魂入れ(たましいいれ)・お性根入れ(おしょうねいれ)の儀式を行ないます。この儀式を一般に「開眼供養(かいげんくよう)」といいます。魂はや霊(たま、れい)と呼ぶこともあります。
魂を入れる事により、ご先祖様や亡き親族に感謝の気持ちを込めて日々の供養を行っていく準備を整えます。
このように最初に魂を入れますが、その場所から位牌を移動したり引っ越しさせたりする場合は、一旦魂を抜くという儀式が一般的です。魂が宿ったまま移動をするのはご先祖様に対し失礼に当たる、というようなイメージです。
これは一般には、魂抜き・お性根抜きと言われるものです。宗派により呼び方は変わりますが、「閉眼供養(へいがんくよう)」と呼ばれることが多いです。
こうして、魂・お性根を抜くことにより位牌を「単なるモノ」として移動できることになります。そして、移動~再安置後は再び魂・お性根を入れる「開眼供養」の儀式をします。
ただ、浄土真宗では「魂」という概念がないので、「魂抜き」「魂入れ」は行われません。しかし、代わりにそれぞれ「遷座(せんざ)供養」「入仏(にゅうぶつ)供養という儀式を行ないます。(呼び方は浄土真宗内でもいろいろあります。)
そのため、もともと浄土真宗では位牌を作らず過去帳をその代わりとしている家も多くあります。
位牌の魂抜き・魂入れをする方法
お坊さんに依頼する3つの方法
位牌の魂抜きや魂入れは、お坊さんに依頼して供養儀式を行ってもらいます。お坊さんに依頼する方法には以下の3つの方法があります。
2、インターネットの「僧侶手配・紹介サービス」を利用する
3、位牌や仏壇の供養整理専門業者に依頼し、お坊さんを手配・派遣してもらう
3つの方法をそれぞれ見ていきましょう。
檀家の場合など、直接旦那寺(だんなじ)へ依頼する方法
最も正式な方法です。お坊さんに家に来てもらい、直接仏壇や位牌の前で魂抜き・魂入れの供養儀式をしていただきます。
あなたが檀家さんの場合は、その旦那寺(だんなじ)のお坊さんに直接依頼します。檀家さんでない場合でも、知人の紹介や近所の寺院を自ら探すなどして依頼できる場合もあります。(※檀家とは、その寺院の登録会員のようなイメージです)
一番安心できる供養方法ですが、供養準備やお坊さんへの対応がわずらわしいというデメリットもあります。さらに、直接依頼した場合、「お布施をいくら渡したらいいかわからない」という心配もしなくてはなりません。
一般に、お坊さんへお渡しする魂抜き・魂入れ供養のお布施相場は、1儀式あたり1~5万円です。
インターネットの「僧侶手配・紹介サービス」を利用する方法
また、どこのお寺の檀家さんでもない場合や、特に近所に頼める寺院もない場合は、インターネットの僧侶手配サービスなどで探して依頼します。
どんなお坊さんが来るかわからないという不安はあります。ただ、最大のメリットはお布施額が予め定額で決まっているという安心感です。
インターネットの「僧侶手配・紹介サービス」での魂抜き・魂入れ供養のお布施相場は1儀式あたり3.5~4.5万円程度です。
位牌や仏壇の供養整理専門業者に依頼し、お坊さんを手配・派遣してもらう
多くの位牌・仏壇の供養整理専門業者は、お坊さんの手配・派遣サービスも行っています。希望すれば、お坊さんの手配をしてもらえます。
普段は供養専門業者と懇意にしており、いろいろな家に出張訪問しているお坊さんですから安心です。また、お布施額相場は魂抜き・魂入れのセットで4.5万円~程度です。
まとめ
以上、位牌を移動・引っ越しする場合に必要な供養とその方法について解説しました。
あなたやあなたの親族が、伝統や地域のお付き合いなどを重視する場合は、旦那時のお坊さんにきていただくことがベストでしょう。
ただ、あまりこだわりがない場合は、「僧侶手配・紹介サービス」を利用するという選択肢もあります。
現実には、移動前には旦那時のお坊さんにまた、遠方への移動後は「僧侶手配・紹介サービス」を利用するというパターンもあります。
いずれにしても、これら儀式の原点は「ご先祖様への感謝」です。この感謝の気持ちさえ忘れなければ、あまりルールにこだわりすぎなくても良いのではと思います。
最終的には、家族・親族間でトラブルが起こらないよう、供養方法を十分協議する必要があります。