さまざまな理由で、位牌の面倒を見られず継承できないがために、供養処分をして手放す人が増えてきました。いわゆる「位牌整理」と呼ばれる位牌の供養処分です。
永代供養のように、寺院などに引き続き供養を代行してもらうのではなく、位牌から魂・お性根を抜いてお焚きあげをすることによって、「位牌そのものを整理処分すること」をいいます。つまり、供養の対象物としての「位牌というモノ・形」は姿を消す事になります。
【位牌整理処分のご供養】
このように位牌の整理処分をする際、位牌に書かれてある「戒名」はどうすればいいのでしょうか?選択肢としては、以下の3つがあります。
1、何もしない(戒名を消滅させる)
2、自分で記録して残す(過去帳やメモ、写真など)
3、菩提寺へ返納する
の3つの方法です。
今回は、戒名の本来の意味を知り再認識することにより、上記3つの「位牌を供養して整理処分する際の戒名の取扱い」について、自分で判断選択できるよう解説します。
位牌とは何か?
位牌の意味とは?
仏壇の中に、黒い縦長の板状のものがあると思います。家系の名前や故人の名前が書かれています。これが位牌です。高さが50cmを超える大きなものから10cmより小さいものまでいろいろなサイズのものがあります。
【本位牌】
位牌とは、「家の継承と家の継続への思い」を形に現したもので、先祖の霊魂を祀る(まつる)木製のものです。紙製の位牌もたまに見かけます。
そして位牌には、「故人や先祖の魂が宿っている」と言う考えのもと、日々ご供養をし、また感謝の気持ちを故人や先祖に伝える対象になっています。お墓参りを、家でできる代替品といえるかもしれません。
位牌と言う名称の語源は、霊魂をいつき祀る(まつる)「斎木(いはひき)」というものであり、この「斎ひ祀る(いはいまつる)」から「いはい」という名称になったということです。
位牌の種類
位牌はまず大きく2種類に別れます。一つがお仏壇の中でよく見かける黒い位牌です。もう一つが、葬儀やその後の初期の仏事に使用される白い位牌「白木の位牌」です。
白木の位牌は、親族が亡くなり急遽作った仮の位牌です。一方黒い位牌は、葬儀など一連の儀式が終わったあと、本格的に作った「本位牌」、つまり正式な位牌ということになります。
【白木位牌(左)と本位牌(右)】
黒い本位牌には、一枚物の板状のものと、「先祖や故人の名前が記された札」が何枚も中に納めることのできる箱型の「繰り出し位牌」というものに、大きく2種類に分けられます。
【繰り出し位牌】
仮の位牌である白木の位牌は、葬儀から四十九日まで一通りの儀式が済んだあと、黒塗りの本位牌に作り変えます。そして、もとの白木の位牌はお焚きあげをするなどによって処分します。このとき、白木の位牌から魂を抜いて、黒塗りの本位牌に魂・お性根を移し替えて入れます。
このように魂・お性根を抜く儀式を多くの宗派では「閉眼(へいがん)供養」、また魂を入れる儀式を「開眼(かいげん)供養」といいます。なお、浄土真宗では「魂」という概念がありません。
浄土真宗では「魂抜き」「魂入れ」は行われませんが、代わりにそれぞれ「遷座(せんざ)供養」「入仏(にゅうぶつ)供養などの儀式をします。(呼び方は浄土真宗内でもいろいろあります。)ただ、浄土真宗では位牌を作らず過去帳を代わりとする門徒さんも多いようです。
戒名とは何か?
戒名のルーツ
次に戒名についてです。どの種類の位牌にも名前が書かれています。一般的には、表面に戒名、裏面に俗名(生前名)と没年です。戒名とは、平たくいえばお坊さんに授けてもらった名前のことです。
現代の戒名のルーツは、親族が亡くなったその日に、僧侶に依頼して菩薩戒(ぼさつかい)を唱えてもらうことに由来します。菩薩戒とはお経のようなものと考えて下さい。
戎を受けることにより、仏弟子すなわち出家者になる。そこで出家者としての名前が与えられる。これが戒名であり、戒名を授ける日本の習慣はここから始まったとされています。(宗派によりこの考えは変わります)
戒名の本来の意味
本来、戒名とは亡くなってからではなく、生前に仏教に帰依し戒律を守ることを誓った者に与えられる、仏教徒としての名前のことをいいます。「帰依する」とは「拠り所にする、すがる、信者になる」ということです。
また、ここでいう守るべき仏教の基本的な戒律とは「三帰五戒(さんきごかい)」のことです。三帰とは、仏(仏さまそのもの)・法(仏の教え)・僧(仏の教えの実行集団)に帰依することです。また、五戒とは、「生き物を殺さない・盗まない・みだらなことをしない・嘘をつかない・酒を飲まない」ことを守るという戒律です。
つまり、本来は生きているうちに、この戒律をすべて守ったものに対し与えられる資格が戒名といえます。超難関試験を突破して獲得した資格のようなものです。
ただ、この戒律を生前にすべて守るのは至難の技です。それゆえ現代では、「死後の名前」をさすようになっています。これは、戒名を授けられることによって初めて死者は、「戒律を守ったものとして認められ、無事に成仏することができる」という捉え方がされるからです。立派な功績を残した人へ、死後に与えられる勲章のようなイメージです。
また、この戒名にはランクがあるのが現実です。生前の菩提寺への寄付金や寄与などの貢献度や、葬儀の時に支払うお布施の金額によって、より位の高い名前がもらえます。相場は、20~30万円から数百万円です。美空ひばりさんは三千万円だったといわれています。「地獄の沙汰も金次第」といわれる所以です。
なお、一般的には「戒名」という人が多いですが、浄土真宗では「法名(ほうみょう)」といい、日蓮宗では「法号」といいます。
戒名は自分でつけてもよい?
このように戒名は、いわば名誉的・勲章的な意味合いを持ちます。お坊さんから仏弟子として認められた証です。「これであなたも悟りを開いて無事に浄土へ成仏できますよ」という、あの世行きのチケットを手に入れたようなイメージです。
それにしても戒名代が高額すぎる、と思っている人が多いのも現実です。こうした中、近年では(2010年ころから)、戒名を自分で付ける人も出てきています。戒名には、宗派ごとに一定の決め方のルールがあるので、自分でつけようと思えば誰でもできるのです。
ネットショップのアマゾンで「戒名の付け方」等で検索すると、数冊の書籍が出てきます。これらを参考に、自分で戒名を決めることもできます。自分で決めるので戒名料は無料です。仮に、今回位牌を手放し処分することになったとしても、このようなことを知っておくと、将来的にあらためて位牌を作るとしてもハードルは下がります。
戒名の構成
位牌を供養して整理処分する前に、現在の戒名がどのような構成でできており、使用されている文字にどのような意味があるのか知っておくとよいかもしれません。戒名は概ね以下の様な基本構成になっています。上から順に、
①院号3字(〇〇院)
②道号2字(△△)
③法号2字(□□、いわゆる狭義の戒名・法名のこと)
④位号2字(居士、信士など)
です。ただ院号がない場合も多く、そうした場合は、「道号2字+法号2字+位号2字」という構成になります。それぞれの内容は、以下のようになります。
①院号
元々は、檀家として寺院に貢献した人だけに与えられる称号です。たとえば「寺院改修にあたり多額の寄付をした」とかです。したがって、多くの一般人には院号は通常用いません。院号がある場合は、「〇〇院」と書かれています。
②道号
故人の趣味・性格・業績・生前名などを表す字を使用します。
③法号
いわゆる戒名・法名と呼ばれる部分です。一般には、俗名・生前名から一文字とって付ける場合が多いです。
④位号
仏教徒としてのランクを表します。上から順に、男性なら
大居士(だいこじ)、居士(こじ)、信士(しんじ)
女性なら
清大姉(せいだいし)、大姉(だいし)、信女(しんにょ)
となります。「社長、部長、一般社員」のようなイメージです。なお、よく位牌に書かれてある戒名の一番上にある最初の判読不能な文字(梵字)や空、「新帰元」あるいは、戒名の一番下に書いてある「位」や「霊位」は戒名には含まれません。
戒名の実際の構成例
たとえば、私の父の戒名は「義岳寛誠信士霊位(ぎがくかんせいしんじれいい)」です。宗派は曹洞宗です。この基本構成を見ると、
①院号は無し
②道号が「義岳」
③法号が「寛誠」
④位号「信士」
となっています。
【実際の構成例】
道号には、1字目に生前名から1字引用されています。また、道号の2字目には実字、つまり実際に目に見えるもの、自然の情景などを使用します。父の場合「岳」です。また、狭義の戒名である法号には、2字目に清字つまり、眼に見えない抽象的な意味の漢字です。父の場合、「誠」です。生前は誠実であったということでしょうか。
また、院号がなく最後が「信士」となっているので、寺院への貢献度は小さかったのでしょう。戒名ランクは一番下です。
ちなみに、戒名は禅宗(曹洞宗と臨済宗)から始まりました。実際は、宗派ごとに戒名の付け方は異なっていますが、曹洞宗、臨済宗、天台宗、真言宗は基本的に戒名のつけ方が共通しています。この4つの宗派は、もっとも一般的な戒名の構成になります。
宗派ごとに、このようなルールを知っていれば、自分で戒名を付けることは難しくありません。位牌を整理処分しても、自分で再び戒名をつけることも可能です。
位牌を供養して整理処分する際、戒名はどうする?
このように戒名は、一定のルールのもとに決められており、また本来名誉的・勲章的な意味合いを持ちます。お坊さんから仏弟子として認められた証です。「これであなたも悟りを開いて無事に浄土へ成仏できますよ」という、あの世行きのチケットを手に入れたようなイメージです。
つまり、無事に成仏できればもうこのチケットは本来要らないことになります。ただ、現代では「戒名=死後の呼び名」という意味合いが強いです。そのため、成仏後も戒名を供養の対象として、生前の故人を忍ぶ場合は、戒名の存在意義は残ります。
こうしたことを踏まえ、「位牌供養~整理処分の際の戒名の取扱い」についての次の3つの選択肢、
1、何もしない(戒名を消滅させる)
2、自分で記録して残す(過去帳やメモ、写真など)
3、菩提寺へ返納する
について、それぞれ見ていきます。
1、何もしない(戒名を消滅させる)
位牌の魂・お性根を抜いてお焚きあげすると同時に、戒名も消滅させる方法です。記録にも残さないということになります。お坊さんから仏弟子として認められた証および、成仏できる資格としての戒名ですから、すでに不要であるという考え方です。
戒名消滅後に故人を忍び供養する場合は、その対象が生前名であったり写真であったりします。この方がなんだか自然なような気もします。
2、自分で記録して残す(過去帳やメモ、写真など)
「位牌を供養して整理処分しても、戒名まで消滅させるのは少し抵抗がある」という人は、自分で記録して残しておいてください。過去帳がある場合は、そこへ記入すればよいです。ない場合は、ノート、手帳、パソコン、ウェブクラウド上などへ記録しておくとよいでしょう。
【過去帳へ記録】
また、位牌を直接スマホやデジカメなどで撮影し保存しておくと、それ自体が供養の対象として利用することができます。戒名を「故人を偲ぶ対象」として考えるなら、必ずしも位牌という形がなくてもよいのです。位牌無き後も引き続き供養をされるのなら、この「自分で戒名を記録して残す」方法がよいでしょう。
菩提寺へ返納する
もともと戒名は、お坊さんから授けてもらったものですから、菩提寺へ相談する・お返しするというのが筋だという考え方もあります。たとえば、運転しなくなったから免許証を返納するようなイメージです。
【菩提寺へ返納(写真は本文と無関係です)】
ただ、このようなことを菩提寺のお坊さんに相談すると、多くの場合反対されます。位牌を処分すること・檀家を抜けること・戒名を返納すること、などに対しあまりよい顔をされません。
面倒を見られなくなるのであれば、永代供養を勧めて来られるパターンが多いです。もちろん永代供養を選択できる環境にあればそれに越したことはありません。ここでいう環境とは、「経済的」および「心理的」な負担に対するものです。
経済的負担とは、寺院の永代供養の相場30万円程度です。また、心理的負担には、檀家関係を続けることの煩わしさや、お布施・寄付の負担などがあります。このような負担が大変な場合は、あえて菩提寺のお坊さんに相談しないという人もだんだん増えてきていることも現実です。
まとめ
戒名ではなく俗名のままでも、立派に日々の供養はできると思います。仏教の考え方からは逸脱しますが、形より気持ちの問題です。
むしろ、高額・高ランクで立派な戒名を付けても、日々供養せずほったらかしにしているよりははるかに故人や先祖のためになります。私たちも、従来のようにお坊さんのいう通りになるのではなく、一度自分の頭で戒名について考え、いろいろな選択をする時代になっているのかもしれません。
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